第12回 まとめと変革の時代に求められるエンジニア像 | DX時代の製品開発プロセスとCAEの重要性

前回(第11回)は、開発プロセス運用の仕組み作りについて以下のように紹介しました。

プロセスの確実な運用には仕組みが不可欠であり、SIPOCとRFLPに基づいた標準化と開発情報類を一元管理するための情報基盤の構築と実装が重点です。
今回(第12回)は、本シリーズのまとめと変革の時代に求められるエンジニア像について私なりの見解を述べてみたいと思います。

初めに、本シリーズの総括をしておきます。

現代は100年に一度の変革期とも言われ、社会や技術、モノやサービス等、多岐に渡り変革が始まっています。従来の技術や手法が通用しない時代になりつつあり、変化に対する適応力が問われています。私は「強い者ではなく変わる者が生き残る時代」だと考えています。

変革のキーワードの一つはDXで、デジタル技術による事業革新を原動力に企業競争力を高めることです。製造業ものづくりにおいては製品開発、調達、生産技術、製造、品質、販売等の各部門が連携し合い、エンジニアリングチェーンとしてつながることで製品を顧客に供給できます。連鎖をデジタル技術と情報で結合してデジタルエンジニアリングチェーンに進化させ、情報を各部門が最大限に活用し、効率向上、品質向上、コスト低減、製造リードタイム短縮等を実現していきます。

開発部門はグローバル競争激化等を背景に製品競争力を高め続ける必要があります。加えて、開発を高効率化して、限られた資源を自動運転や電動車等の次世代技術開発に移行していくことも要求されています。これらの要請に応えるためには開発プロセス改革が必須です。改革の主目的は手戻りの未然防止により試作回数を減らして開発を効率化し、併せて設計最適化により競争力強化(性能向上、軽量化、コストダウン等)に寄与することです。基本的な手段はMBD/MBSEを導入し、デジタル技術(CAD、CAE、情報プラットフォーム等)をフル活用して開発プロセスを再構築することです。

MBSEはSEを基盤としMBDを開発プロセスに拡張した概念で、上位階層のシステム設計から下位階層のサブシステム(コンポーネント)設計、部品設計へとつなげます。増加していく複合系(機構、流体、電気、制御等のマルチドメイン)システムを最適設計するために、MBSEは不可欠な方法論となります。CAEはプロセスを支える中核であり、開発プロセスの各段階に体系的に組込むことが肝要です。運用の仕組み作り(標準化やプラットフォーム実装)まで確実に実施することでプロセスは安定的に運用可能になります。

次は、開発部門を想定した、変革の時代に求められるエンジニア像です。言うまでも無く、エンジニアも時代に遅れることなく自ら変わることが望まれます。

変革のキーワードの一つは上述のDX/デジタルエンジニアリングで、MBD/MBSEやデジタル技術で開発プロセスが変わります。新たなプロセス構築や製品の技術企画においては従来の設計、解析、実験等の分業では難しく、協業が必須となり組織の形態も変わっていきます。エンジニアはMBSEやデジタル技術の使い方と価値を知り、専門領域を超えて新たな開発プロセス全体を理解した上で使いこなせる必要があります。

もう一つのキーワードは、地球温暖化防止/カーボンニュートラルです。地球温暖化が人類最大の環境課題となり、最大の排出国である米国が枠組みに復帰する等で足並が揃いはじめ、もはや避けては通れません。世界の潮流は、2050年頃を目途に地球温暖化ガス排出実質ゼロを目指すことです。

自動車業界では電動化が加速し、走行中に二酸化炭素を排出しないEV(電気自動車)やFCV(燃料電池車)にシフトしていくのは確実な情勢です。他方で電動化の課題は多く、普及拡大には想定以上に時間がかかると思われます。主な課題としては、インフラ面では充電設備や水素充填設備の増設、カーボンニュートラル発電の拡大、技術面では電池エネルギー密度、航続距離(リアルワールド走行)、資源面では電池材料(リチウム、コバルト等)、電池リサイクルシステム、価格面では従来車より割高なこと等です。なお、水素を燃料とする内燃機関も研究されており、選択肢の一つとなる可能性もあります。カーボンニュートラルについては開発現場にも大きな影響がありますので、機会がありましたら最新動向や課題解決の見通し等について詳しく解説したいと思います。

電動化の拡大に伴い、内燃機関に関連するエンジニアは中長期的には電動パワーユニット開発にシフトしていくものと思われます。ちなみに、電動車においても機械系のシステムや部品は大変多く、私は内燃機関で培ってきた技術力は十分に生かされると考えています。むしろ、新たな活躍の場と前向きに捉えて、電気系のエンジニアを支えていく気概を持っていただきたいと思います。

本コラムに1年間お付き合いいただき、どうもありがとうございました。主題(DX時代の製品開発プロセスとCAEの重要性)と副題(強い者ではなく変わる者が生き残る時代)に沿った内容にしたつもりですが、図解や事例が少なく分かりにくい部分も多かったのではないかと思います。今年になってMBSEに基づくシステム最適設計の本格的な事例(※)が公開されましたので、是非参考にしていただければと思います。

※機構系システム:
岩迫昭大, 宮澤昌也, 角田芳秋, 他
クランクシャフトシステムにおけるシステム最適設計手法の確立
自動車技術会 2021年秋季大会 学術講演会予稿集

※複合系システム:
佐藤範行, 椎名亮介, 城戸洋恒, 他
VTCシステムにおけるシステム最適設計手法の確立
自動車技術会 2021年春季大会 学術講演会予稿集

著者ご紹介

品川エンジニアリング株式会社
(技術コンサルティング)
プロメテック・ソフトウェア株式会社顧問
品川 博 様

プロフィールを見る

1979年

㈱本田技術研究所 入社(四輪R&Dセンター)

  • エンジン設計(基幹部品)
  • エンジン設計部門長
  • パワートレイン開発部門長(米国研究所)
  • 開発プロセス改革(MBD/MBSE、設計基準構築等)

2016年
品川エンジニアリング㈱ 設立(技術コンサルティング)

  • MBD/MBSE、開発プロセス改革等
  • プロメテック・ソフトウェア顧問