第4回 「粒子の動かし方」と「加速度の求め方」について | 粒子法入門

今回のコラムでは、粒子法で基本となる粒子の動かし方についてお話します。粒子の移動量(距離)は「距離=速度×時間※1」で表されますので速度の情報が必要です。その速度を求める(更新する)のに必要な加速度についてもお話します。

1. 粒子の動かし方

簡単に書くと、次のような手順で粒子を動かします。

 

[0] 初期時刻における全ての粒子の座標※2と速度\( \boldsymbol{u}\)※3を定める。

[1] ナビエ・ストークス方程式により粒子の加速度\( \boldsymbol{a}\)を求める。

[2] 求めた加速度に従って粒子の速度を更新(加速、減速、等速)させる。

[3] 更新した速度で粒子を少し移動させる。

[4] 手順[1]に戻って[1]~[3]を繰り返す※4。

 

いかがでしょうか。そんなに難しくないですよね。

2. 粒子の加速度の求め方

前節の手順[1]で、「ナビエ・ストークス方程式により粒子の加速度を求める」と書きました。ナビエ・ストークス方程式は、流体の運動方程式です。まずは運動方程式から説明します。運動方程式は、ある質量の物体に力\( \boldsymbol{F}\)が加わったときの物体の加速度\( \boldsymbol{a}\)を表す式であり、次式のように表されます。

$$ \boldsymbol{m} \boldsymbol{a}=\boldsymbol{F} $$

この式の両辺を\(\boldsymbol{m}\)で割ると

$$ \boldsymbol{a}=\frac{\boldsymbol{F}}{\boldsymbol{m}} $$

となります。この式は、物体に働く加速度は物体に働く力\( \boldsymbol{F}\)に比例し、質量\( \boldsymbol{m}\)に反比例するということを表します。式(2)の右辺(物体に働く力\( \boldsymbol{F}\)を質量\( \boldsymbol{m}\)で割った値)を計算すれば、加速度\( \boldsymbol{a}\)が求まるということです。流体の場合も同様です。ある流体の塊に働く力をその流体の塊の質量で割ることで、次式のように加速度が求まります。

$$ \boldsymbol{a}=-\frac{1}{\rho} \nabla P+\nu \nabla^{2} \boldsymbol{u}+\boldsymbol{g} $$

この式(3)がナビエ・ストークス方程式です。様々な記号が使われていますが、拒絶反応を起さないでください。この式を簡単に説明すると、「流体の場合にはいくつかの力※5(この場合3つの力)が働くため、右辺のように複数の加速度成分の和として加速度は書ける」ということを表しています。粒子法では、式(3)の右辺を計算することで流体粒子の加速度\( \boldsymbol{a}\)を求めているのです。式(3)の右辺の各項の意味については補足※6を参照ください。各項の具体的な計算方法については参考文献1)に詳しく書かれていますので、興味がある人はぜひご参照ください。

参考文献:

  1. 越塚誠一、柴田和也、室谷浩平、”粒子法入門”、丸善出版、2014年6月25日

補足:

※1:ここで時間は、時間刻みの幅 を意味します。流速や粒子の大きさにもよりますが、例えば \( \Delta\boldsymbol{t}=\boldsymbol{0.001}\)​など十分小さな値に設定します。

※2:粒子の初期座標は、通常は粒子が等間隔に並ぶように定めます。この間隔は、初期粒子間距離と呼ばれ、粒子の大きさ(空間解像度)を表します。

※3:粒子の初速度は、解く問題に合わせて設定します。例えば、初期時刻に流体が静止していれば、全ての粒子の初期速度を\(\boldsymbol{0m/s}\)​に設定します。

※4:圧力を陰的に求める場合は、若干手順が増えます。

※5:表面張力や他の外力が加わる場合は、さらに項の数が増えます。

※6:式(3)の右辺の第1項の\(-\frac{1}{\rho} \nabla P\)​は圧力による加速度(圧力\( P\)​の傾きに比例する力。マイナスがついているのは、圧力が高い方向ではなく低い方向に力が働くためである。)を表します。右辺第2項の\(\nu \nabla^{2} \boldsymbol{u}\)​は粘性による加速度の項(流体の粘り気により運動量が拡散される項。\(\nu\)​は動粘性係数。)を表す。右辺第3項の \(\boldsymbol{g}\)​は重力項(鉛直下向きに約\(\boldsymbol{9.81m/s}\)​の大きさを持つベクトル)です。

著者ご紹介

東京大学大学院 工学系研究科
システム創成学専攻 准教授
プロメテック・ソフトウェア技術顧問
柴田 和也 先生

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2007年
東京大学大学院 工学系研究科
システム量子工学専攻 博士課程修了 博士(工学)

2007年
(独)海上技術安全研究所 入所
​海の10モードプロジェクトチーム研究員

2009年
東京大学大学院 工学系研究科 システム創成学専攻 助教

2013年
東京大学大学院 工学系研究科 システム創成学専攻 講師

2017年
東京大学大学院 工学系研究科 システム創成学専攻 准教授